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人権啓発ドラマ『バースデイ』田口監督インタビュー

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人権啓発ドラマ『バースデイ』田口監督インタビュー

2023年開催の教育映像祭にて最優秀作品賞(文部科学大臣賞)、映文連アワードにて部門優秀賞を続けて受賞した作品、『バースデイ』の監督 田口仁さんに作品に対する思いや制作時のエピソードなどについてインタビューしました。


田口 仁

東映株式会社 東京撮影所
第二製作部 所属

1991年に入社以降、助監督を経て監督デビュー。
教育映画を中心に、テレビドラマ、オリジナルビデオなど幅広い作品を監督する。代表作は、「終わりなき悔恨(主演:千原せいじ)」、最新作は教育映像「大切なひと(主演:山口まゆ)」監督作品は35作品以上。そのうち過去14作品が教育映像祭などで、各種の賞を受賞している。

人権啓発ドラマ『バースデイ』

性の多様性を認め合う
~誰もが自分らしく生きられる社会をめざして~


2022年度制作
出演:鈴木砂羽、坂本澪香、菊池麻衣子、菅原大吉
2023年映文連アワード ソーシャル・コミュニケーション部門 部門優秀賞
令和5年度優秀映像教材選奨 最優秀作品賞 文部科学大臣賞

作品の詳細はこちらから

『バースデイ』田口監督インタビュー

「人権」とは
「その人がどうしたいのか」尊重しあおうということ

  • 作品の内容はどのように決めていったのでしょうか?

ブレインストームを行う中で、LGBTQ+について「偏見を持っていない」と思っている人でも「自分の家族だったら、当事者だったら許容できなくなるのではないか」という意見がでました。実際に取材をする中で「カミングアウトする順番は、職場、学校、兄弟、親の順番ですね」という話が複数出てきました。すでにカミングアウトしている人でも「親にはまだです」という人が多数いらっしゃるそうです。であれば一番難しいテーマを取り上げようじゃないかとなりました。


 

  • 子どもに愛情や愛着がある上で、自分の考えを押し付けてしまう親という設定ですが、どのように捉えられたのですか?

愛情があったとしても、親は本人ではないので強要すべきではないと思っています。「人権」というものは、「その人がどうしたいのか」を尊重しあおうというものです。

親であっても立ち止まって本人がどうありたいのかを考えて欲しいです。本人以外が、「お前はこう生きるべきだ」とか「女(男)はこうあるべき」とか「〇○な人はこうあるべき」とか決めつけることが人権侵害やハラスメントの原因だと思います。

 

  • 取材で印象に残ったこと

取材対象者が、口に出して言えないような罵詈雑言を家族から浴びせられたことなど、衝撃的なエピソードも多く聞くことができました。ちょっとそのままではドラマに出来ないなと。

取材するうちに監修の日高庸晴先生(宝塚大学 看護学部教授)も参加されている「プライド東京レガシー」というLGBTQの情報発信・交流施設をご紹介いただきました。ここではLGBTQ関連の企業研修などもされているのですが、その書棚が印象的でした。

LGBTQ関連の書籍が、男女差別、ジェンダーバイアス、人種・国籍差別、同和問題などの書籍と一緒に並べられていました。その書棚は、同じ人などおらず、グラデーションがあるだけなんだ、同じ地平にあるものなんだと示しているようでした。


  • キャスティングはどのように行われたのでしょうか?

「普段はさばけた人なのに子どものことになると冷静さを失ってしまう」という役は誰なんだ、という発想です。「お母さん」っぽい人ではギャップがなくてつまらない。

そういう意味で颯爽とした印象のある鈴木砂羽さんにお声がけしたところ、お忙しいなか(大ヒットドラマ「相棒」の撮影開始寸前でした)お引き受けいただくことができました。

普段見ることができない鈴木砂羽さんをお届けできたのではないかと思いますし、物語が膨らんだと思います。現場では「座長」として他のキャストを引っ張っていただき、とても頼もしかったですね。

(母親・美由紀役の鈴木砂羽さん)

  • 両親の演出をする際に心がけたことはありますか?

冒頭で父親が食後の洗い物をしています。台本にない部分ですが、ジェンダーロール(性別による役割分担)の決めつけをしないように心掛けました。多様性の基本的部分だと思うからです。

主人公である母はカミングアウトした我が子を拒絶しますが、その分、父親には子供を理解しようとする仕草をしてもらってカミングアウトした子どもが居場所を失わないようにする機能を分担してもらいました。

  • トランスジェンダーの主人公・尊(笑花)役の坂本澪香さんとはどのようにコミュニケーションとったり、演出したりされましたか?

LGBTQに否定的な人に共感意識をもって貰うのがこの映画の最大の目標でした。感情表現が強すぎてアレルギー反応を起こされては逆効果です。

なのでセリフでの感情表現を極力抑制的に、でも表情や仕草でその深い悩みを表現してもらうようにお願いしました。

セリフで最も激しく感情表現するのは「親から完全否定されるシーンまでとにかく抑えて」と。

 

 (トランスジェンダーの主人公・尊(笑花)役の坂本澪香さん)

「私の普通」と「あなたの普通」はちがう


  • 全体的に演出などで気を付けた点はありますでしょうか?

LGBTQ+当事者や差別意識を持っている人も見るという前提で作っています。その双方に最後まで見てもらえなければ伝えたいメッセージが届きません。感情を揺さぶるセリフを作りたくなってしまいますが、あえてセリフを抑えつつ芝居で苦しさや解放感を表現してもらうように工夫したつもりです。

  • セリフの表現で全体的にこだわったことや気を付けたことはありますか?

「普通ってこうだよね」「変わっているよね」という言葉自体に、(誰かの普通の基準という)強制がはいっていると考えています。

「わたしの普通と、あなたの普通は違う」訳ですし。

普遍的な普通などそもそも存在しないということを、明確なセリフでは言ってないが、全体を通して伝えたかった事です。

この作品以外にも、様々な人権啓発の動画がございます。下記より、ご参照ください。

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