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なぜ中小企業にもハラスメント対策が必要なのか?

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なぜ中小企業にもハラスメント対策が必要なのか?

2022年4月の「パワハラ防止法」全面施行により、ハラスメント対策はすべての中小企業にとって義務となりました。「知らなかった」では済まされない時代に、なぜ今、中小企業にもハラスメント対策が必須なのでしょうか?

本記事では、年間12万件を超える職場ハラスメント相談の現状や、放置した場合の企業リスク、そしてパワハラ・セクハラといった具体的なハラスメントの種類、さらに中小企業がいますぐ取り組むべき対策まで、詳しく解説します。大切な従業員と企業を守るために、ぜひご一読ください。

ハラスメント相談の現状と企業リスク

職場におけるハラスメント相談は依然として高水準

厚生労働省が公表した「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、「いじめ・嫌がらせ」に関する労働相談は、統計上の分類変更があったものの、12年連続で相談内容のトップを維持しています(60,125件)。

また、2022年4月の「パワハラ防止法」全面施行に伴い、別途集計されるようになった「パワーハラスメント」に関する相談(これまで「いじめ・嫌がらせ」に含まれていた)も、令和5年度は60,053件と非常に高い件数となっています。

(※備考 厚生労働省「令和5年度の都道府県労働局雇用環境・均等部(室)における 雇用均等関係法令の施行状況について」:https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001274451.pdf

これらを合算すると、職場におけるハラスメントに関する相談は年間12万件を超え、大企業だけでなく中小企業においても、ハラスメントが依然として深刻な問題として顕在化している現実を示しています。

訴訟リスクの増加と企業ブランドへの影響

ハラスメントは従業員の心身の健康を著しく損なうだけでなく、企業に対する訴訟リスクを高め、社会的信用を失墜させる可能性があります。特にSNSなどで内部告発が拡散されやすい現代においては、一度失われた企業イメージの回復は極めて困難です。これは、採用活動への悪影響や取引先からの信頼喪失にも繋がりかねません。

2022年4月施行「パワハラ防止法」の概要

2022年4月、改正労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)が中小企業にも適用されました。これにより、職場におけるハラスメントを防止するための具体的な措置が、大企業だけではなく、中小企業にも義務化されています。

中小企業も対象となり、対応が義務化

これまでは努力義務とされていたハラスメント対策が、中小企業においても完全に「義務」となりました。対応を怠った場合、法的責任を問われるリスクが増加します。行政指導や企業名の公表対象となる可能性もあり、「知らなかった」では済まされない状況であることを認識すべきです。

企業に求められる対策とは?

法令遵守の観点に加え、従業員が安心して安全に働ける労働環境を整備することは、企業の持続的な成長に不可欠です。企業は、そのための具体的な対策を講じる必要があります。

経営層が取り組むべきハラスメント対策の基本方針

ハラスメント防止は、単なる人事課題ではなく、経営の最重要課題として捉えるべきです。経営層が明確な防止方針を打ち出し、その実現に向けてリーダーシップを発揮することが、全社的なハラスメント対策を推進する上で最も重要になります。トップの姿勢が、従業員の意識と行動を大きく左右します。

企業の価値を守るために経営層が果たすべき役割

ハラスメントのない健全な職場環境は、従業員のエンゲージメントを高め、結果として定着率向上や生産性向上に直結します。これは企業の競争力を高め、ひいては企業価値の維持・向上に繋がります。経営層は、この重要な役割を認識し、率先してハラスメント防止に取り組むべきです。

中小企業が直面するハラスメントの種類と事例

職場におけるハラスメントは多岐にわたり、それぞれが従業員に深刻な影響を与えます。自社で起こりうるハラスメントの種類を理解し、従業員全員が共通認識を持つことが効果的な対策の第一歩です。

パワーハラスメント(パワハラ)

パワーハラスメントとは、「職場における優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、労働者の就業環境が害されること」を指します。2019年に制定された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、下記の3要件を満たす行為と定義され、2022年4月からは事業規模を問わずすべての企業に法律に基づく対応が義務付けられています。

  • 優越的な関係を背景とした言動
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
  • 労働者の就業環境が害されるもの

具体的には、職務上の地位、経験、年齢、人数、専門的な知識などが職場内で優位であることを背景とし、業務の範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えることや、職場環境を悪化させる言動を指します。上司から部下だけでなく、部下から上司、同僚間でも発生する可能性があります。例えば、業務上の指導を逸脱した人格否定や威圧的な態度は典型的なパワハラです。

セクシュアルハラスメント(セクハラ)

セクシュアルハラスメントとは、「相手の意に反した性的な言動を行い、相手を不快にさせること」をいいます。男性から女性に対するものに限らず、女性から男性、同性同士、LGBTQ+の方に対する言動もセクハラの対象となります。

勤務時間内だけでなく、業務時間外の飲み会などでも、その場への参加が実質的に義務である場合は「職場」とみなされ、不快な言動はセクハラに該当する可能性があります。また、SNSなどの連絡ツールで交際を執拗に迫ったり、性的に不快な言葉を執拗に送ることも、過去にセクハラとして認められた事例があります。

セクハラ行為は大きく分けて、下記の2つに分類されます。

  • 対価型セクシュアルハラスメント: 性的な言動に対し、労働者が拒否したことで解雇や降格などの不利益を被るもの。
  • 環境型セクシュアルハラスメント: 性的な言動により、労働者の就業環境が不快になり、能力の発揮に悪影響が生じるもの。

モラルハラスメント(モラハラ)

モラルハラスメントは、道徳や倫理に反する嫌がらせ行為のことで、精神的な苦痛を伴うハラスメントです。暴言や無視、過度な干渉などによって、組織内の人間関係を悪化させ、従業員の精神状態に悪影響を及ぼします。

マタニティハラスメント(マタハラ)

妊娠・出産・育児休暇などを理由に、女性労働者が職場で不当な取り扱いや嫌がらせを受けることです。これは、女性従業員のキャリア継続を阻む大きな要因となり、企業の女性活躍推進にも逆行します。

パタニティハラスメント(パタハラ)

男性労働者が、育児のために育児休暇や時短勤務などを利用したことなどを理由として嫌がらせを受け、就業環境が害されることです。男性の育児参加を阻害し、家庭と仕事の両立を困難にさせます。

中小企業が取り組むべきハラスメント防止対策

中小企業がハラスメントを未然に防ぎ、健全な職場環境を維持するためには、計画的かつ継続的な対策が不可欠です。

社内ルールの策定と明文化

ハラスメントに対する企業の基本的な姿勢とルールを明確にすることが、対策の第一歩です。ハラスメントに関する就業規則や行動指針を具体的に明文化し、全従業員に周知徹底することで、何が許されない行為なのかを明確にします。

従業員研修・教育の実施

全社員を対象に、ハラスメントの定義、種類、具体例、そして発生時の対処法に関する定期的な研修を行うことが非常に有効です。従業員一人ひとりの意識を高め、ハラスメントを「自分ごと」として捉える機会を提供します。

「ドラスタ」を活用した研修の導入

より効果的で継続的な研修のために、外部の専門サービスやツールを活用することも推奨されます。例えば、東映が運営しているオンライン研修システムドラスタのようなサービスを導入することで、従業員は場所や時間を選ばずにハラスメントに関する知識を習得できます。

実践的なケーススタディの活用

座学だけでなく、実際に起こりうる具体的なハラスメント事例を用いたケーススタディを研修に取り入れることで、理解が深まり、緊急時に冷静かつ適切に対応できる実践的な能力を養うことができます。

相談窓口の設置と対応マニュアルの作成

ハラスメントが発生した際に、従業員が安心して相談できる環境を整え、企業が迅速かつ適切に対応するための体制を構築します。

社内・外部相談窓口の設置

ハラスメントの事案が発生した際に相談できる窓口の設置は、ハラスメント防止法により、2022年4月から中小企業においても義務付けられています。

  • 社内相談窓口:相談者のプライバシー保護を徹底し、守秘義務のある担当者を明確にします。
  • 外部相談窓口:社内に相談しにくい従業員のために、弁護士や社会保険労務士などの外部専門機関と連携した相談窓口も活用し、第三者による客観的かつ中立的な支援体制を整えましょう。匿名での相談も可能であることを周知し、相談しやすい雰囲気を作ります。

ハラスメント発生時の対応フロー

苦情受付から事実確認、調査、適切な処分、そして再発防止策の実施までの一連の対応フローを具体的に策定し、迅速かつ公正な対応を可能にします。このマニュアルは、関係者が迷わず行動できる指針となります。

ハラスメント対策における企業の責任とリスク管理

職場におけるハラスメントは、従業員の心身に深刻な影響を及ぼすだけでなく、企業の信頼や業績にも大きなダメージを与える重大なリスクです。特に中小企業にとっては、ひとたび問題が表面化すれば、経営難になり、企業存続にも関わるケースが少なくありません。

ハラスメント発生時の対応手順

ハラスメントが発生した際、企業として迅速かつ適切な対応を取ることが極めて重要です。初動対応を誤ると、被害の拡大や二次被害につながる可能性があります。以下は基本的な対応手順です。

  • 事実確認: 被害者、加害者、第三者からのヒアリングを通じて、客観的な事実を正確に把握します。
  • 証拠の確保: メール、チャット、録音など、証拠となりうる資料を可能な限り保存し、証拠保全に努めます。
  • 迅速な対応: 問題の重大性に応じて、加害者の配置転換や一時的な出勤停止など、被害者保護を最優先とした措置を速やかに講じます。
  • 再発防止策の実施: 事案の原因を究明し、研修の強化、就業規則の見直し、相談窓口の改善など、再発を防ぐための具体的な仕組みづくりを徹底します。

企業の法的責任と損害賠償リスク

ハラスメント対策を怠った企業は、法的責任を問われる可能性があります。労働契約法における安全配慮義務違反によって、被害者から損害賠償請求を受けるケースは増加傾向にあります。

パワハラ・セクハラ・マタハラなどの防止措置義務(労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児介護休業法など)に違反した場合、企業は行政指導の対象となり、最悪の場合には企業名が公表されることもあります。

近年では、SNSによる情報拡散により「企業イメージの毀損」リスクが深刻化しています。一度失われた信頼を取り戻すには、多大な時間と労力が必要となります。

中小企業であっても、「知らなかった」では済まされません。ハラスメントが発生する前に、明確なルールと迅速な対応体制を整備しておくことが不可欠です。

風通しの良い職場づくりの重要性

ハラスメントの根本的な予防策として最も効果的なのは、「風通しの良い職場づくり」です。従業員同士が互いに尊重し合い、不満や不安を早期に相談できる心理的安全性の高い文化が醸成されていれば、深刻なトラブルに発展する前に対処できます。

  • 定期的な面談やアンケートの実施: 従業員の声を定期的に聞き、潜在的なハラスメントのリスクを早期に把握します。
  • 社内相談窓口の整備と周知徹底: 従業員が安心して相談できる窓口があることを繰り返し周知し、利用しやすい環境を整えます。
  • 経営層・管理職による模範的な言動: 経営層や管理職が率先してハラスメントを許さない姿勢を示し、オープンで建設的なコミュニケーションを実践することが、職場全体の意識向上に繋がります。

まとめ|中小企業が今すぐ取り組むべきハラスメント対策

中小企業においても、ハラスメント対策はもはや「選択肢」ではなく「義務」であり、「企業の安全と信頼を守るための最重要課題」です。

ハラスメントを未然に防ぐための教育・仕組みづくり、万が一発生してしまった場合の迅速かつ適切な対応体制、そして何よりも日頃からの風通しの良い職場環境づくりが、企業の持続的な成長を支える鍵となります。

今すぐ始めるべきことは、以下の3つのステップです。

  1. 就業規則や社内ルールの明文化と全従業員への周知徹底
  2. 相談窓口(社内・外部連携含む)と通報制度の整備
  3. 全社員を対象としたハラスメント研修の実施(オンライン研修なども活用)

従業員の信頼を守り、安心して働ける職場環境を築くためにも、ハラスメント対策は「今すぐ・本気で」取り組むべき課題です。


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